怒りで大パニック!易疲労と記憶障害の無限ループ

「はぁはぁはぁ…」

 

入院中は毎日仕事仲間に電話をしていました。休憩室の電話ボックスでぐったりしながら。

 

まるで1500mを全力で走った直後のような状態。まともに座っていられません。息も絶え絶えでまともに喋れません。

 

電話の向こうからは「泣いてるのかよー。泣くなよー。」という励ましの声。

 

ちがいます。泣いていません。バテてしまい息が切れているのです。たかが10分程度の電話で。

 

「なぜ電話をすると、こんなにグッタリするんだろう?」

 

長時間話すわけではありません「今日一日の出来事を5分程度話す」たったこれだけ。

 

心配していただいてコミニケーションを取ってくれるように配慮してくれたのです。とてもうれしくありがたかったです。

 

病気をすると社会とのつながりが途絶えるのがとても怖いです。だから必ず18:00になると電話をかけていました。

 

ところが電話をすると必ずグッタリ疲れ果ててしまうのです。なぜなのかまったく理由がわかりませんでした。

 

その理由がわかったのは退院後。脳に傷が入った時の症状「易疲労」だったのです。

 

頭がズゥンと重い…息も絶え絶え…易疲労

易疲労とは「神経疲労、脳疲労」とも言うそうです。千葉リハのグループリハビリでそう習いました。

 

頭を使うとグッタリしてしまいます。

 

厄介なことに本人に自覚がない場合があります。私の場合は後頭部が「ズゥン」と重くなる症状がありました。

 

そして全力疾走した直後のように息が切れました。脳は大量に酸素を消費するそうです。大学病院の主治医から説明を受けました。特に傷ついた脳の回復では尋常ではないと思います。

 

脳が全力を尽くして回復しようとしている状態です。だから滅茶苦茶疲れています。体はもう休めと言っています。その状況でも私は「休もう」とは考えませんでした。

 

易疲労でバテバテ…それでも休まないのはなぜ?

私が覚えている範囲では、こんな感じで易疲労の症状が強く出ました。

 

「イオンへお散歩に行くと頭がズーンと重くなってぐったり。」
「心理検査の最中に頭がズーンと重くなってぐったり。」
「千葉リハからの帰りの電車内でぐったり。」
「仕事に夢中になりすぎると、知らぬ間にぐったり。」

 

移動中や検査の時は仕方がないとして…。「仕事中だったら休めばいいじゃない?」って思いますよね?

 

ここが高次脳の悲しさなんです。遂行機能障害もあったので、

 

「どんなに疲れても仕事をやめようとしない。」

 

こんなふうになってしまうのです。そして最後はこうなりました。

 

「訳が分からなくなり発狂状態。」

 

私は退院後にこの状態になることが時々ありました。本来の私はそれほど仕事が好きではありません。いかに早く楽をして終わりにするかを考えるタイプでした。

 

だけど、
「自分はまだできるんだ。」
「それを絶対に証明しなければならない。」
「だからこの程度の仕事は今日中に必ず終わらせなければならない。」

 

こんな意地が私を支配していました。その結果が疲れ果ててグッタリなんですが、疲れても休憩をとれないのです。

 

易疲労なのに休憩をとれない…ついに怒り爆発!

「無理をしすぎて倒れたら一生寝たきりになりますよ。」

 

妻は主治医からそう言われていたそうです。だから妻は私に無理をさせないように必死でした。しかし私の行動は止められません。

 

「記憶障害だから作業を中断すると忘れてしまう!休憩なんてもってのほか!」

 

疲れると記憶が飛びやすくなります。だから必ず休憩が必要です。主治医にも「勇気をもって休憩せよ」と言われていました。

 

でも休憩すると忘れてしまいます。怖くて休憩ができません。休憩を取らないとますます記憶力が落ちます。今行っていることがザルのようにボロボロと抜け落ちます。完全に負の無限ループです。

 

「ああああああああ!!!!!!!」

 

そしてついに発狂状態。出来るはずのことを出来ず、先へ進めない自分に怒り爆発です。悔し涙がボロボロこぼれてきます。

 

この時の私の表情はこの世のものとは思えなかったと妻は言っていました。小学四年生の子供は大泣きです。

 

仕事仲間から「もう終わりにしろ!」と電話で怒られてようやく仕事を止められるような状況でした。

 

なぜ発狂状態になるまで自分を追い込むのか?

私は「昔と同じように仕事ができなければならない」という考えにとらわれていました。一つの考えにとらわれて別の手段を用いられなくなっていました。これが遂行機能障害の症状なのだと思います。

 

普通の人なら疲れたら休憩をとることができます。でも障害を負った私は休憩に恐怖を感じていました。

 

普段なら5分で終わる仕事が夜中の0:00が近くなっても仕事が終わりません。ぐるぐると同じことを繰り返すばかりです。夕飯も食べていません。

 

数時間かけて積み重ねてきた事が、ちょっとしたはずみで記憶から消えてしまうのです。忘れたらもう一度ゼロからやり直します。滅茶苦茶悔しいです。健康な人でも頭がおかしくなりそうになるでしょう。

 

石を積み重ねたと思ったら鬼に崩されるアレと同じです。

 

  • 脳に傷を負った私はとても疲れやすくなっていました。疲れてはいけません。
  • でも記憶が飛んでしまうため同じことを何度も繰り返さないと先へ進めません。
  • やがて疲れ始めます。疲れるとますます記憶が飛びやすくなります。
  • でも記憶が飛んでは仕事が進みません。それは絶対許せません。
  • だからどんなに疲れようとも忘れたところから作業をやり直します。
  • するとますます疲れます。疲れるとさらに記憶が飛びます。記憶が飛んだらまたやり直します…。

 

これが私を連日発狂状態に追い込んだ、記憶の負の無限ループです。

 

私にとっての対処方法は一つでした。仕事の責任者からの「いいからもう終わりにしろ!」の言葉だけです。それ以外の言葉では私は止められませんでした。

 

「これができないのなら、倒れて植物人間状態になってもいい!」とまで妻に伝えて泣かせていたくらいです。

 

高次脳機能障害になった方が仕事を再開する際に、強く注意すべき点だと思います。本人は命がけで戦っていますから、止めるほうにも強い意志が必要です。生半可では止められません。